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デザインってなんだろう。10分間だけ動物園の飼育員になって考えてみる。

デザインってなんだろう。10分間だけ動物園の飼育員になって考えてみる。

いろんな場面で耳にする“デザイン”という言葉は、どういう意味でしょうか。調べてみると想像以上に広範囲の意味を持つ“デザイン”について、今回は「問題を適切な方法で解決する計画」「視覚などの感覚に訴える情報の設計」の2点を中心に考えてみます。 (親しみやすくするために動物園のケースを例にしていますが、動物園自体に意味はありません。)

1-1.最低限の情報のみなら問題解決も簡単

あなたは動物園の飼育員です。
おやつを与える時間がきたので、いつものようにゾウがいる建物へやってきました。

おやつのりんごを入れ物から取り出そうとした時、りんごが残り1個しか無いことに気づきました。
建物の中にはゾウが合計で2匹います。この1つしかないりんごを、2匹のゾウで分ける場合はどうしたら良いでしょうか。

この程度ならあまり考えなくても分かるでしょうか。1つのりんごを半分ずつにすると解決ですね。

1-2.条件をクリアするための提案

では、同じ状況で「2匹のゾウのうち1匹は大きな大人のゾウで、もう1匹は小さな子どものゾウ」の場合、どのような方法で解決できるでしょうか。
条件をクリアするための方法はいくつかありそうなので、他の飼育員に提案を聞いてみましょう。

[ 条件 ]

2匹のうち、1匹は大人のゾウ、もう1匹は子どものゾウの場合


[ 提案 ]

飼育員A:2匹だから、半分ずつにします。

飼育員B:大人のゾウに3分の2、子どものゾウに3分の1です。

飼育員C:大人のゾウに3分の1、子どものゾウに3分の2です。

あれ、みんなそれぞれ違う提案をしていますね。 なぜ意見が分かれたのか、飼育員に提案の理由を聞いてみましょう。

1-3.解決方法は複数ある

なぜ3人の飼育員は、それぞれ違う提案をしたのでしょうか。 きっとその提案には、そうするべき理由があります。どうしてその方法で問題を解決するのか、意見を聞いてみましょう

[ 提案の理由 ]

飼育員A:1つを2匹で分けるので半分ずつです。1÷2=0.5 と計算できます。

飼育員B:大人のゾウは子どもより体が大きいので、少し多めにあげたいです。

飼育員C:子どものゾウに早く大きくなって欲しいので、少し多めにあげたいです。

どうでしょうか。どの飼育員もきちんと考えていて、みんな間違いではなさそうです。
でも、これだけ提案があると、どうやってりんごを分けたらいいのか決められません。
そこで、どの提案にするかの決定権を持つ園長にも意見を聞いてみましょう。

1-4.要望を判断基準に設定する

園長にえさやりの方針を聞いてみたところ、以下のように答えてくれました。

[ 要望 ]

体が大きい動物はすぐにお腹がすくので、体の大きさを考慮して考えてください。

園長の希望に最も近い提案は、どの飼育員のアイデアが近いでしょうか。 「体の大きさを割合の基準とする」のであれば、今回は飼育員Bさんの提案が適切ですね。 ということで、この場合は「B:大人のゾウに3分の2、子どものゾウに3分の1」が最善の解決方法と考えられます。

1-5.最善の問題解決方法とは

今回は「りんごをどのように分けるか」というケースで考えましたが、提案をする飼育員をデザイナーに置き換えて、園長をクライアントに置き換えると、なんとなくデザインの問題解決プロセスが分かってきたでしょうか。 何を基準に、どの手法で問題を解決するかを順番に考えていくと、自然に最も良い答えに辿り着くことができます。

ポイントのおさらい

[1] 問題の起きている状況、情報を丁寧に確認する

[2] 問題を解決する方法をいくつか考えるする

[3] 基準の条件に対して、より適切に問題を解決する方法を選択する

あなたは引き続き、動物園の飼育員さんです。 勤めている動物園に、今日から新しい仲間がやってくるようです。 でも、受け入れの準備が十分ではないため、ニックネームが書かれた紹介プレートがまだありません。 そこで、園長の所へ紹介プレートが無いことを報告に行くと、「急いで今から作って欲しい」と頼まれました。 さて、それではどんな紹介プレートを作ったら良いでしょうか。

2-1.条件や要望を確認する

どのような紹介プレートが望ましいか、園長へアドバイスをもらうと以下のように答えてくれました。
意見を参考に、要素・構成を考えてみましょう。

[ 必須項目 ]

・ニックネームを入れること(アフリカゾウのトーマスくん)

・写真を入れること


[ 追加要望 ]

・親しみを持ってもらいやすい見た目がいい

・写真で分かりやすく伝えたい

・特徴などの情報も取り入れたい

・子どもにも読みやすくしたい

2-2.情報を伝達する計画を考えてみる

さて、園長からもらったアイデアをもとに、デザインの得意な同僚の飼育員2人にお願いして1案ずつ作ってもらいました。
園長から聞いたアドバイスを参考に2つの案を見てみると、どちらの紹介プレートが適切な構成でしょうか。
次のセクションに進む前に、それぞれの良いところを見つけて理由を考えてみましょう。

[ A案について ]

・写真が大きいので一目でどんな動物かわかりやすい

・角丸の文字から、やさしい雰囲気を感じる

・フリガナを付加しているので子どもが内容を読むことができる

・視認性の高いゴシックフォントを使っているので読みやすい


[ B案について ]

・フリガナがを付けないことで行間が広がらず、文章がすっきり見える
(難しい漢字は読めないかもしれない)

・文章がたくさんあるので詳しい情報が分かる
(写真が小さいからどんな動物か分かりにくいかもしれない)

・明朝フォントを使っているので整った印象がある
(小さい文字になると読みづらいかもしれない)

2-3.条件や要望をクリアできているか確認する

園長に完成した2つの紹介プレートを見てもらったところ、園長はA案を選びました。 2つの紹介プレートはどちらも素敵な出来栄えです。では、園長はなぜA案を選んだのでしょうか。 セクション3-2で延長にヒアリングした項目を、別の言葉で表現すると以下のようになります。

[ 要望に込められた気持ち ]

・紹介プレートは動物の名札みたいなものだから、図鑑みたいにたくさんの解説文章は必要ないかな。
たくさんの文字よりも、写真を見ることで一目で動物が分かるようにしたいな。

・特に子どもたちに動物園を楽しんで欲しいから、やさしい印象があるといいな。

・できれば、好きなものや特徴の情報も載せて、動物についてもっと興味を持ってもらいたいな。

どうでしょうか。園長の要望に込められた本当の気持ちを考えてみると、今回の要望により近いのはA案の紹介プレートだと思います。
「好きなものや特徴の情報も載せて、もっと興味を持ってもらいたい」点については、B案の方が圧倒的な情報量ですが、文章を多くすることによって他の要素が伝わりにくい形になってしまいました。

要望の中で優先順位を付けたり、片方を立てる代わりに何かを諦めることも、実はデザインの設計にとても重要なポイントです。
美味しい味が楽しめるお菓子だからといっても、チョコレートとハンバーグとアイスクリームとカレーの味がぜんぶ一緒になっていたら台無しですよね。

今回のケースで分かったように、要望項目の表面に現れていない感情をたどって行くと、根本には詳しい考えがあることがわかります。 項目に込められた気持ちをより理解することで、より相手がイメージしているものに近いデザインを提案することができます。

ポイントのおさらい

[1] 問題の起きている状況を丁寧に確認する

[2] 要望に込められた想いを辿り、理解を深める(様々な方面から考えてみる)

[3] 伝えたい情報を適切な形で伝達するために、様々な表現手法の中から適切な手段で設計する

今回は2つのチャプターに分けて、問題解決のための提案と、伝達させるための情報設計について分けて解説しました。
デザインのジャンルによってはどちらの方面からも同時に考えて進める必要があるため、難しい印象を持ってしまいがちですが、ひとつひとつを切り分けて確認して行くと意外とシンプルに解決できます。
特にレイアウト設計の際は「こんな感じかな?」と感覚で行うと、相手のイメージとすれ違う可能性が高くなるため、項目を丁寧に確認しながら構成に落とし込む理由を考えた方が良いでしょう。

デザインをする上で一番ややこしいのは、クライアントとデザイナーの間に起こる認識のズレから始まるトラブルかもしれません。 大抵はシンプルな問題なのに、クライアントの主観や意識の擦り合わせ不足によって問題が複雑になることがよくあるんですよね…多くは語りませんが。



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